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若手離職の真相 「クオーターライフクライシス」と人事評価制度の関係性

近年、多くの日本企業で、20代後半から30代前半の若手従業員がキャリアや人生に深刻な迷いを抱える「クオーターライフクライシス(QLC)」が、組織の活力低下や人材流出の大きな要因として注目されています。

この心理的な危機は、個人のウェルビーイングを損なうだけでなく、企業の生産性や定着率にも悪影響を及ぼしかねません。本記事では、QLCの実態とその背景、特に企業の人事評価制度が与える影響を深く掘り下げ、組織が取るべき具体的な対策を提案します。

1.見過ごせない若手の危機「クオーターライフクライシス(QLC)」とは

クオーターライフクライシス(QLC)とは、人生の約4分の1を過ぎた20代後半から30代半ばにかけて多くの人が経験する、キャリア、人間関係、自己認識に対する強い不安や焦り、迷いを指す心理状態です。

将来への漠然とした不安、進むべき方向性の喪失感、現状への不満、自己肯定感の低下、孤独感、そして「自分は何者なのか」というアイデンティティの揺らぎなどが主な症状として現れます。

なぜ今、日本の若者の間でQLCが広がっているのでしょうか。その背景には、現代社会特有のいくつかの要因が複雑に絡み合っています。

  • 変化するキャリア観と「働きがい」への渇望: 終身雇用や年功序列といった従来の雇用システムが変化し、キャリアの流動性が高まる中、若手は企業への帰属意識よりも、自身のスキルアップや市場価値向上を重視する傾向が強まっています。「働きやすさ」だけでなく、仕事を通じて自己成長や社会貢献を実感したいという「働きがい」への要求も高まっています。
  • SNSが生む「比較」と「焦り」: 20代の約9割が利用するSNSは、他者の成功体験(しばしば理想化されたもの)に触れる機会を増やしました。これにより、「自分だけが取り残されている」といった不必要な焦りや劣等感が生じやすくなり、自己肯定感を低下させる一因となっています。
  • 多様化する選択肢と社会的プレッシャー: 働き方や生き方の選択肢は増えましたが、一方で旧来のキャリアパスやライフステージ(結婚など)に関する社会的な期待やプレッシャーも依然として存在します。選択肢の多さが、かえって「正しい選択をしなければならない」というプレッシャーや迷いを生んでいます。
  • 経済的な将来不安: 少子高齢化が進む日本において、将来の経済状況や年金、老後の生活に対する不安は根強く、若者のQLCを深刻化させる要因の一つです。AIによる雇用の変化といった未来への懸念も、この不安を増幅させています。

2.職場環境がQLCを加速させる? 特に注視すべき人事評価制度

個人の問題と捉えられがちなQLCですが、実は職場環境、とりわけ人事評価制度のあり方が、若手の不安を増幅させ、危機感を深刻化させているケースが少なくありません。

  • キャリアパスの不透明さと成長機会の欠如: 自身の将来のキャリアパスが見えず、スキルアップや成長の機会が乏しいと感じる環境は、QLCの大きな引き金となります。特に、市場価値を高めたいと考える若手にとって、「頑張っても成長できない」「やりがいを感じられない」状況は深刻な不安要素です。「成長意欲はあるのに環境が伴わない」いわゆる「ゆるブラック」な状態も問題視されています。
  • マネジメントの質: 上司からの適切なサポート不足、一方的なコミュニケーション、不公平な業務配分、過度なプレッシャーは、若手の孤立感やストレスを高め、QLCを悪化させる要因となります。
  • 評価基準の曖昧さと不透明性: 「何をどう頑張れば評価されるのか」が不明確な評価基準は、目標設定を困難にし、将来への見通しを立てにくくさせます。また、評価プロセスが不透明だと、公平性への疑念が生まれ、組織への不信感に繋がります。
  • 納得感の低い評価と公平性の欠如: 自身の努力や成果が、評価や報酬に正当に反映されていないと感じると、従業員のモチベーションは著しく低下します。特に、未だに残る年功序列的な要素や、上司の主観・相性に左右される評価は、「頑張っても報われない」という無力感や不公平感を生み出し、QLC特有の焦燥感を強めます。実際、人事評価によってモチベーションが下がった経験を持つ人は半数を超えるという調査結果もあります。
  • 評価とQLCの悪循環: 不公平・不明瞭で成長に繋がらない評価制度は、若手のエンゲージメント(組織への愛着や貢献意欲)を低下させ、「静かな退職(Quiet Quitting)」のような状態を引き起こします。これはQLCにおける「現状への不満」や「キャリアへの不安」をさらに深刻化させ、最終的に離職意向を高めるという悪循環を生み出す危険性があります。
  • 心理的安全性の欠如: 自分の意見を自由に表明できなかったり、失敗が許されなかったりする組織文化も、若手の挑戦意欲を削ぎ、QLCの閉塞感を強める一因です。

3.企業が取り組むべきQLC対策:公正な評価とキャリア支援を中心に

若手従業員のQLCを緩和し、その能力を最大限に引き出すためには、組織全体での取り組み、特に人事評価制度の改革とキャリア支援の強化が不可欠です。

① 公正で「成長を促す」評価制度の構築

  • 役割と達成基準の明確化: まず、各役職やポジションに求められる役割(いつまでに、何を、どのレベルまで達成するか)を具体的かつ客観的に定義します。これが評価項目となり、達成基準が明確になります。これにより、評価時期が来た際に、誰が見ても達成・未達成の判断が一致する評価項目を設定します。年功序列やプロセスではなく、「成果」に基づいた評価を重視します。
  • 評価者の一元化: 上記のように客観的な基準に基づいた評価項目であれば、評価者によるブレは生じません。自己評価、直属上司の評価、さらにその上の評価も一致するはずです。したがって、評価者は直属の上司一人で十分機能します。定性的な(主観が入りやすい)評価項目は、評価者の数だけズレを生む原因となるため避けるべきです。
  • パフォーマンスに応じた公平・平等な評価と制度の透明化: 客観的な基準に基づいた評価を行い、成果を出した人が報われる制度を構築します。この評価制度の仕組みを全社員に公開し、周知徹底することで、不公平感を払拭し、納得感を高めることが、QLCの改善にも繋がります。

② 組織内でのキャリアビジョン形成支援

  • キャリアステップの可視化: 公正で明確な評価制度と連動させ、継続的に成果を上げることで、より高いポジションやグレードに昇格できる仕組みを設けます。このキャリアパスを社内制度として「ガラス張り」にすることで、若手社員は将来のキャリア展望を描きやすくなり、自身のライフプランに合わせた目標設定が可能になります。
  • 多様なキャリアパスの提示と機会提供: 画一的なキャリアパスだけでなく、組織内で実現可能な多様なキャリアの選択肢を示し、それぞれに必要なスキルや経験を明示します。社内公募制度、計画的なジョブローテーション、挑戦的な業務へのアサイン(ストレッチアサインメント)などを通じて、多様な経験と成長機会を提供し、社内でのキャリアチェンジを活性化させます。
  • スキル開発機会の充実: 市場価値の向上に直結する専門スキルや、どの組織でも通用するポータブルスキルを習得するための研修プログラム、資格取得支援制度、OJT(On-the-Job Training)、eラーニングなどを積極的に提供し、活用を奨励します。

③ その他の重要な支援策

  • マネジメント能力の向上: 管理職向けに、部下の育成方法、キャリア相談の乗り方、公正な評価・フィードバックの手法に関する研修を定期的に実施します。
  • 心理的安全性の確保: 経営層が率先して、従業員が自由に意見を述べ、質問し、失敗から学ぶことを恐れずに挑戦できる、オープンで風通しの良い組織文化を醸成します。
  • ウェルビーイングの推進: メンタルヘルスサポート(相談窓口の設置、カウンセリングの提供など)、柔軟な働き方(リモートワーク、フレックスタイムなど)の導入、休暇取得の奨励などを通じて、従業員の心身の健康を支援します。

4.個人の主体性と企業の環境整備

もちろん、QLCを乗り越えるためには、個々人による自己分析、SNSとの健全な距離の取り方、必要なサポートを求める力といった主体的な努力も重要です。しかし、企業がこうした個人の努力を支え、後押しする環境を整備することこそが、その効果を最大化する鍵となります。

まとめ:QLC対策は、未来への「組織成長への投資」である

クオーターライフクライシスは、現代の若者が直面するリアルな課題であり、その背景には、変化するキャリア観、SNS文化、経済的な将来不安といった日本社会特有の要因が複雑に絡んでいます。特に、不公平感や不透明感を伴い、成長実感を得にくい人事評価制度は、若手の不安や不満を増幅させ、エンゲージメントの低下や離職を引き起こす主要な原因となっています。

企業がQLCに真摯に向き合い、効果的な対策を講じることは、単なる福利厚生の問題ではなく、企業の持続的な成長に不可欠な経営戦略です。公正で成長を促す評価制度への改革、個々のキャリアビジョン実現を支援するガラス張りの制度設計を中心に、心理的安全性の高い文化の醸成、公平なマネジメントを推進すること。これらは、若手人材の定着と活躍を促し、組織全体の生産性向上と未来への成長を実現するための、極めて重要な「投資」と言えるでしょう。

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